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​NEWSLETTER

Life with Art & Music 
01/05/2026

Vol.13 大倉山記念館は、語る。

大倉山記念館は、語る。

――精神文化へと歩みを導く場所

大倉山記念館を訪れるために、
緩やかに続く坂道を上っていくと、
まず松林の美しい、静かな庭園が迎えてくれる。
一瞬にして、都会の喧騒を忘れさせる場所だ。

この庭園は、単なる前庭ではない。
音楽や思索と向き合うための、静かな前奏である。

やがて視界の先に現れるのが、
1932年に建てられた大倉山記念館である。

この建物は、実業家・教育者であった大倉邦彦 により設立された
「大倉精神文化研究所」の本館として築かれた。

大倉邦彦は、近代日本の実業界で成功を収める一方で、
人間や社会の基盤は、経済や技術だけでは成り立たないと考えていた。


哲学、宗教、歴史、芸術――
人の内面を形づくる精神文化こそが、社会の持続的な発展に不可欠であるという信念を、
生涯にわたり抱き続けた人物である。

その信念のもと、彼は幼児教育や女子教育、学術研究に私財を投じ、
人が静かに思索し、学び、耳を澄ますための「場」を求め続けた。


都会の中心ではなく、大倉山の地が選ばれたのも、
心静かに研究と修養に向き合うためであった。

研究所の設立を機に、太尾町という地名は「大倉山」へと改められ、
この場所そのものが、大倉邦彦の思想を象徴する存在となっていく。

建築を手がけたのは、建築家 長野宇平治。

彼は、古代ギリシア文明以前のクレタ・ミケーネ文明に着想を得た
独自の「プレ・ヘレニック様式」を採用した。

裾細りの太い石柱、螺旋文様。
そこには、古代神殿を思わせる厳粛な緊張感がある。


一方で、正面破風の八稜鏡や鳳凰、ホール内部の斗栱など、東洋的意匠も随所に施され、
西洋と東洋、理性と祈りが、静かに融け合っている。

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正面入口から館内に入り、まっすぐに伸びる壮麗な階段を昇ると、
まるで神殿へと導かれるかのように、ホールの入口に至る。

大倉山記念館木組み天井.jpg

正面に据えられた舞台は、音楽と向き合うために設えられた、
神殿のような静けさを湛えている。

 

ホールは、席数の限られた小規模な空間である。

この親密感に満ちた場は、演奏者と聴衆が同じ空気を共有し、
心を重ね合わせながら音楽と向き合うための条件を、自然に備えている。

高い天井を覆う木組の造形、左右の窓から差し込む光、重厚な緞帳。
壁面を彩る大胆な縞模様、三角文様が、空間に、厳粛な緊張をもたらしている。

音は、過度に響きすぎることなく、
明確な輪郭をもって立ち上がる。

ここは、大倉邦彦が目指したように、
音楽と向き合い、耳を澄まし、
精神を整えるための場でもある。

音楽が本来持っている
秩序、祈り、そして人の内面に語りかける力に、
私たちは、ただ静かに身を委ねるしかない。


 

――大倉山記念館は、語らずして、語りかけてくる。

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